とろっとした餡に香ばしい麺が絡むあんかけ焼きそば。中華料理の定番メニューとして知られていますが、じつは上田を訪れたなら、一度は食べたいご当地グルメでもあります。

今回はそのルーツや特徴をお伺いすべく、中心市街の中華料理店「檸檬」に伺いました。

地元の人気店「中華食堂 檸檬」

お店の創業は昭和58年。すぐ近くの松尾町で開店し、今ある海野街商店街に引っ越してきたのは平成4年のこと。上田市出身のご主人は、元は東京で洋菓子の修行を積んだパティシエだったんだそう。

「自分の店を持ちたいとずっと考えていて、上田に戻ってきました。お菓子作りも好きでしたが、当時ここで飲食をやるとしたら、大衆的な食事の店が地域に合っていると思い、中華料理を選んだんです」。

店名の「檸檬」は、修行先でお世話になった先輩から頂いた大切な名前。繋がりを大切に、丁寧に素材と向き合う姿勢は、パティシエ時代から変わりません。

“あんかけ焼きそば”は、なぜソウルフードに？

冒頭にも触れましたが、あんかけ焼きそばは元々中華料理のひとつです。ではなぜ、上田市のご当地グルメと呼ばれるようになったのでしょうか。

ご主人にお伺いしたところ、「子どものころにはもう、上田であんかけ焼きそばを食べていた」とのエピソードが。大正13年（1924）に長野市の権堂で創業した「福昇亭」という中華料理店をきっかけに、上田市にもあんかけ焼きそばのお店ができ、ソウルフードとして市民に根付いていったのではないか、とお話してくださいました。

檸檬では開店当初からメニューとして取り入れていましたが、あんかけ焼きそばの店として認知されたのは、映画の撮影でいらした大泉洋さんがきっかけ。「北海道にはない細い縮れ麺が最高」と絶賛し、広まっていったそうです。著名人たちを魅了する味の秘密を教えていただきました。

酢とからしとベストマッチ！野菜たっぷりの艶っとした一皿

上田市内のあちこちで提供されるあんかけ焼きそば。共通の特徴はなんといっても、酢で溶いたからしを餡の上からかけて混ぜて食べる、というところ。もちろん檸檬でも健在です。添えられた小さな器にたっぷりのからしと、テーブルセットにある酢。ホールを担当する奥様が丁寧に教えてくださるので、挑戦してお気に入りの配合を探してみてくださいね。

さっぱり酸味にからしのツンとくる感じ、やみつきになること必至です。

くわえて檸檬のあんかけ焼きそばといえば、優しい味わいとたっぷりの野菜が特徴です。

かかっている餡は注文を受けてから一皿分ずつ作るので、いつでも出来立て。「煮詰まることがないからツヤっとして、優しい味になるんです」と、奥様が教えてくださいました。

ニンジンやキャベツ、ほうれん草など、使う野菜は約６種類。そこにプリッとしたエビ、豚肉、うずらの卵が加わって、ボリューミーな一皿が完成します。「玉ねぎを入れないので、餡が甘くなりすぎないのもポイント」と、ご主人。

こだわりの麺は、地元の製麺所に依頼するオリジナル。

「小麦粉の風味を感じてもらいたくて、食感や口当たりを追求しました。うちは他の麺類にも同じ麺を使っているので、一般より少しだけ太めなのが特徴。餡がしっかり絡みます」

また、蒸し麺ではなく生麺を使って固茹でしてから、揚げ焼きするのも檸檬ならではなんだとか。こうすることで餡に負けない、麺そのものの味をも楽しめるようになります。

パリッと焦げ目のついた表面を割ると、ふわっと柔らかな湯気が立ち、優しい味が口いっぱいに広がるあんかけ焼きそば。ボリューミーですがあっさりしているので、女性でもペロッと食べられます。

ファン続出の月一おすすめメニュー

レンガ風の壁に白い窓枠。店の外観は喫茶店にも見える檸檬ですが、店内に掲示されたメニューはまさに街中華。ラーメンや一品料理、定食など、たくさんの料理名が壁に貼られていて選ぶのに迷ってしまいます。看板メニューとなったあんかけ焼きそば以外にも、濃厚な味噌が絡む回鍋肉や、昔から変わらない肉絲タンメンが人気。ニンニクと豚肉の王道餃子もおすすめです。

また、ここ5年ほど続けているのは、月ごとに変わるおすすめメニュー。カレーやトマトなど、季節に合わせた食材や料理を選んで考案しており、「来月はあれでしょ？」と心待ちにしているファンが多いんだとか。お店の前に看板が立ててあるので、チェックしてみてください。

現在は席の距離を保ちつつ、消毒を設置して定期的に換気をするなどの新型コロナウイルス感染症対策を行なっています。「ランチ営業はお待たせしてしまうこともあるけれど、平日の夜は落ち着いているのでご来店ください」とのこと。

酢とからしで自分だけの味変が楽しめる上田市のご当地グルメ、あんかけ焼きそば。優しさと地域愛の詰まった逸品をぜひご賞味ください。